2010年08月26日

過払い金の法的な解釈

1 金銭消費貸借において,借主が利息制限法所定の利率を超える利息を支払っ
た場合には,その過払い金発生の都度,不当利得返還請求権が発生し,借主は,その
発生と同時にその請求権を行使することができる。そのことは,金銭消費貸借にか
かる基本契約において,過払いが発生した場合には,これをその後の新たな借入金
債務に充当する旨の合意を含むものであっても同様であり,かかる合意の存在は,
過払金返還請求権の行使において,法律上又は事実上何らの支障を生じさせるものではない。
2 多数意見は,「一般に,過払金充当合意には,借主は基本契約に基づく新た
な借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本契約に基づく継続
的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を
行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求するこ
とはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供す
るという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。」とするが,明示の特
約が定められていないにもかかわらず,過払金充当合意に上記のような過払金返還
請求権の行使時期に関する合意まで含まれていると解することは,契約の合理的な
意思解釈の限度を超えるものであり,契約当事者が契約締結時に通常予測していた
であろう内容と全く異なる内容の合意の存在を認定するものであって,許されない
ものというべきである。また,過払金返還請求権は,法律上当然に発生する不当利
得返還請求権であるところ,その精算に関する充当合意についてはともかく,その
請求権の行使時期に関して予め合意することは,その債権の性質上,通常考えられないところである。
3 多数意見はまた,「借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負う
ものではないので,一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了さ
せ,その時点において存在する過払い金を請求することができるが,それをもって過
払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対
し,過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続
的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む
基本契約の趣旨に反することとなるから相当でない。」とする。しかし,過払金返
還請求権を行使すれば,貸主は,事実上新たな貸付けに応じなくなる蓋然性は高
く,その結果,借主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることになると
見込まれるが,そうであるからといって,借主に,行使することのできる過去の過
払金返還請求権を留保させながら,なお継続的な金銭消費貸借契約に基づき新たな
借入れをなすことができる地位を保持させることが,法的に保護するに値する利益であるとは考えられない。
多数意見のように,取引終了時から時効が進行すると解すると,その取引開始時
が数十年前であり,不当利得返還請求権の発生がその頃に遡るものであっても,そ
の後取引が継続されている限り,取引終了時から過払金発生時に遡って不当利得返
還請求権を行使することができることとなり,現に本件においては,訴提起時から
27年余も以前の過払いの請求が認められることとなる。しかし,かかる事態は,
商業帳簿の保存期間が10年であること(商法19条3項),時効制度が,長期間
の権利の不行使にかかわらず,その行使を認めることが,かえって法的安定を害し
かねないことをもその立法理由とする制度であること等,期間に関する他の諸制度
と矛盾する結果を招来することとなり,当事者に予測外の結果をもたらすことになりかねない。
また,多数意見のとおり,不当利得返還請求権の時効期間の始期が取引終了時に
なると解することになると,従来から金銭消費貸借にリボルビング方式を採用して
いた貸主は,その契約の始期が相当以前に遡るものについては,借主が新規の借入
れをなした後に過去に遡って不当利得返還請求権を行使した場合には,新規の貸付
金が10年以上前に生じたものを含む過払金と相殺充当されるほか,更に別途不当
利得返還請求に応じなければならないこととなる可能性が存する以上,新規の融資
に応じないこととなると見込まれるのであって,多数意見の解釈は,基本契約に基
づいて長期間に亘って継続して融資を受けてきた借主が更に継続して融資を受ける
ことを希望する場合の借主の利益に適うものとは必ずしも言えないのである。多数
意見の解釈によって利益を得るのは,既に基本取引契約を終了したうえで,不当利
得返還請求権を現に行使し,あるいは行使しようとしている一部の借主に限られる
のであって,かかる借主の保護のために,契約の意思解釈の枠組みを著しく拡大す
ることは妥当とは言えない。
なお,多数意見は,上記の論理を展開したうえで,最高裁平成17年(受)第8
44号同19年4月24日第三小法廷判決及び最高裁平成17年(受)第1519
号同19年6月7日第一小法廷判決を参照判決として引用する。
しかし,上記各引用判決は,いわゆる自動継続特約付の定期預金契約における預
金払戻請求権の消滅時効の起算点に関する判例であるが,自動継続定期預金契約に
おける自動継続特約は,預金者から満期日における払戻請求がなされない限り当事
者の何らの行為を要せずに満期日において払い戻すべき元金又は元利金について,
前回と同一の預入期間の定期預金契約として継続させる内容であることが預金契約
上明示されているのであって,本件の如き不当利得返還請求権の消滅時効期間の始
期に関する契約の意思解釈に関する先例としては,適切を欠くものというべきである。  


投稿者: ミカリン ◆ 16:45コメント(0)