2010年05月19日
背任,詐欺被告
過払い金奮闘記
被告人A1の控訴の趣意は主任弁護人野間禮二,弁護人坂井尚美,同折田泰宏,
同阪本政敬及び同坂井慶共同作成の控訴趣意書,同(補充書)及び弁論要旨並びに
主任弁護人野間禮二及び弁護人坂井慶作成の上申書及び控訴趣意書(補充書その
2)に,被告人A2の控訴の趣意は弁護人後藤貞人及び同金子利夫作成の控訴趣意
書,控訴趣意補充書及び弁論要旨に,各控訴趣意書に対する答弁は検察官室田源太
郎作成の各答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。略
語は原判決の例による。
第1章 被告人両名の控訴趣意中,事実誤認の主張について
被告人A1の論旨は,要するに,原判決は,B1商事に対する融資(原判示第
1),B2実業に対する担保預金の解放(原判示第2),B3に対する融資(原判
示第3)の各事実につき背任罪の成立を,抵当証券販売(原判示第4の1及び2)
の各事実につき詐欺罪の成立を認め,これらををいずれも有罪としたが,被告人A
1には,原判示第1ないし第3の各事実についていずれも任務違背行為及び図利加
害目的がなく,仮に各行為に背任罪として違法性が認められるとしても期待可能性
がないから無罪であるし,仮に有罪であるとしても原判示第1及び第3事実につい
ては損害額の認定を誤っている,また各抵当証券販売事実について,抵当証券販売
の際,買戻特約の履行をする意思も能力もあり購入者を欺罔する故意がなかったか
ら無罪である,よって原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があ
る,というのである。
被告人A2の論旨は,要するに,原判決は原判示第1ないし第3の各事実につき
背任罪の成立を,第4の1及び2の各抵当証券販売事実につき詐欺罪の成立を認
め,これらをいずれも有罪としたが,被告人A2には,原判示第1ないし第3の各
事実についていずれも任務違背行為もその認識もなく,図利加害目的もないから無
罪である,原判示第4の1及び2の各抵当証券販売事実について詐欺の犯意及び故
意がないから無罪である,よって原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事
実誤認がある,というのである。
そこで,所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果もあわ
せて検討する。
第1 背景事情について
1 所論は,原判決が,当時の社会経済情勢とそこに置かれた被告人らが採り得た
具体的な事情を全く無視して刑事責任を論じたと非難している。
確かに,原判決中には刑事責任の成否を検討するに当たって社会経済情勢との関
係について直接的に踏み込んで説示をした部分はなく,量刑の理由中で,被告人ら
が業務容量(以下「業容」という。)拡大の経営方針を採ったことはそれなりに理
解できる,本件各犯行の遠因となったB2実業やB4工務店の業績悪化は経済状況
の変化にもその一因があり,刑事責任を考える上では,自らの力ではいかんともし
難い社会経済情勢に翻弄されて道を踏み誤ったと見るべき面もないではない,など
と説示しているにすぎない。
もとより,社会経済情勢一般との関係については,主として経営判断の是非とい
う観点からの検討にならざるを得ないことはいうまでもなく,経営判断については
その性質上かなりの裁量があると認められるから,判断を誤ったからといって直ち
にそれが刑事責任に結びつくわけのものではない。したがって犯罪が成立するか否
かの判断には慎重を要するとの指摘も相当であり,原判決が,この点は当裁判の射
程外の問題であるとしたのも全く理解できないわけではない。しかし,企業経営も
人の営みに他ならない以上,そこでの経営判断やそれに基づく個々の行為が,諸々
の社会的規制を受けることは当然であり,経営判断を誤った行為が経営責任はもち
ろん民事責任,そして場合によっては刑事責任を問われることがあり得ることも肯
定せざるを得ない。もちろん経営判断は社会経済情勢を踏まえての予測的判断であ
るから,結果的に誤っていたからといって,直ちに背任罪が成立するわけでないが,経営上の種々の判断及びこれに基づく行為が当該状況の下で考えられる裁量を
逸脱したと認められる場合に,背任罪が成立し得るものというべきである。しかし
ながら,ここで誤解してはならない肝要な点は,本件において検察官が公訴事実と
して起訴し,審判の対象とされたものは,所論がいうように経営判断そのものでは
なく,特定の時点における特定の相手に対する融資等の具体的行為が刑罰法規に触
れるか否かが問題とされているということである。もっとも,当該行為が経営判断
と全く無縁のものとはいえないが(所論はこれも経営判断そのものに他ならないと
するかのようである。),経営判断として許される裁量の範囲を逸脱した行為とと
らえられていることは明白である。また,本件で問題とされている各融資等が実行
されるに至った経緯,特に巨額の不良債権が集積してしまった点は,審判の対象と
された具体的行為の罪責の軽重のみならず,場合によっては罪責の有無を決定する
のに影響するほどの重要な事項といえるから,過去の経営判断に誤りがなかったか
否か,誤りがあったとして,それが本件行為の引き金や原因となっているか否かを
検討しなければならず,その限りにおいては経営判断それ自体も検討の対象となら
ざるを得ないということができる。
以上の観点から考えると,原判決の上記説示は委曲を尽くしていないきらいがあ
るといわざるを得ない。そこで,以下,本件各行為に関係する限度において経営判
断につき検討する。
2 所論は,C1信組がとった業容拡大策は大阪府も指示した方針であったこと,
バブルの発生と崩壊は誰しもが予期し得なかったこと,政府のとった総量規制はい
わば劇薬を投入したもので適切でなく,またD1銀行が大量の紹介預金を紹介しそ
れを短期間に引き上げたことなど,C1信組の経営悪化は,被告人らの責任のない
これら種々の要因によって引き起こされたものであると主張する。
そこで検討するに,まず,被告人らが採った業容拡大策は,小規模金融機関が抱
える資金ショートの危険という事態を解消するための一つの有力な手段であるこ
と,監督官庁である大阪府も他の破綻した信組の救済合併を依頼するなどしてC1
信組の業容拡大方針を支持していたことが明らかであることなどによれば,これ自
体はいわゆる経営判断に属し,その当否は当裁判所の判断の射程外と考えるのが相
当であろう。また,バブルの発生と崩壊についても,多くの者が予測できなかった
というものである上,その原因として,金融当局者が採ったプラザ合意後の金融緩
和策と,バブル期の総量規制という政策判断が与ったことは疑いようがなく,これ
が被告人らの手の及ばない事項であることは論をまたない。さらに,D1銀行が短
期間に巨額の預金を紹介し,それを短期間に引き上げたことが,C1信組の預金及
び貸付構造に大きな歪みをもたらしたことはいうまでもなく,そのことがバブル崩
壊と地価下落の時期と一致したこともあって,C1信組に与えた影響は甚大であっ
たと評価せざるを得ない。
しかしながら,もともと信用組合は,中小事業者を対象とした地域密着型の相互
保障的金融機関であって,銀行など他の金融機関と比べて資金調達の手段が限られ
るという弱点があるから,運営方針の決定に当たっては,この点を考慮した慎重な
舵取りが求められていたというべきである。その意味で,多くの預金を高利で集め
てそれを当時旺盛な資金需要をもった不動産関連業者に貸し付けるというにとどま
らず,融資規制のない系列ノンバンクを設立しそのルートも使って飛躍的に融資を
拡大していくという運営方針は,本来的に信用組合の性格からの逸脱度が大きく危
険度の高いものであることを自覚する必要があったというべきである。このこと
は,大阪府による定例検査の際,毎年のように大口信用集中の解消など法令通達等
の遵守や不動産業に特化した融資の是正,関連会社の融資の適正化などについてた
びたび指導を受けていた事実からみてもいえる。そうすると,バブル経済が進行し
地価が高騰を続けている段階においてさえ,それが永続的に続くわけでないことは
当然であることからすれば,D1銀行からの紹介預金を大規模に受け入れるという
判断をしたこと自体行き過ぎであったとの批判を免れず,また不動産関連業者への
融資にも自ずから限度を設けるなど節度が要求されていたと考えられる上に,バブ
ルが崩壊して地価が急激な下落を始めた局面では,必ずしも容易なことではないが
それらを可及的速やかに整理縮小して,信用組合として適正な運営方針に立ち返る
ことが求められていたというべきである。現に,信用組合よりも経営基盤が充実し
体力のあるはずの他の金融機関においても,その段階において不動産の売却や法的
手段を断行するなどして,一定の損失を計上しても不動産業への貸付けを整理し,
不良債権の拡大を止める方策をとったことが認められる(原審検508,51
0)。被告人らは,任意売却や競売によって大口融資先に対する債権を処理することはできなかったと述べるが,被告人ら自身,それらの手法で処理した融資先があ
ったことは認めつつ,ただ大口融資先は本業がしっかりしているから利貸しで時間
を稼ぐという判断をした旨述べているところからすれば,絶対に売却処理ができな
かったとはいえない。その上,B4工務店やB2実業において一定の収益力のある
本業があったとしても,もはや不動産投資の焦げ付きは規模が大きくなっていたか
ら,その処理の緊急性を認識し得なかったはずはなく,要は,損切り覚悟で売却す
る決断までつかなかっただけと解される。この段階においては不良債権もさほど膨
らんでいない反面,C1信組にはバブル経済状況下において蓄えた体力があったか
ら,そのような不良債権処理を行うことによって破綻にまで至るようなことはなか
ったと考えられる。また,この時期は上記のD1銀行からの紹介預金が急激に引き
上げられていた時点であり,この引き上げによってC1信組の財務状態が危機に至
ることは明らかである点に徴しても,上記の整理縮小を行う必要性はより明確であ
ったというべきである。
以上のように,被告人らとしていかんともし難い要因が多々あったことは事実と
しても,上記の業務運営はその中で被告人らが選択した判断であり,それを選択し
ないという判断ももちろんあり得たことは明らかである。とりわけ経営基盤の安定
に高度の責任を有する金融機関の経営者としての責任を免れるはずがなく,被告人
らが平成3,4年の段階で大口貸付先に対して積極的に債権回収策をとらなかった
ことは経営判断の誤りと評価すべきである。
3 さらに,C1信組においては,大口融資先に対して利貸しを続けて,不良債権
額を飛躍的に増大させてきたことも極めて問題である。
(1)所論は,利貸しは金融機関の外に財産が流出しないから,帳簿上の付け替え
と同じであり,それ自体マイナスはないと主張する。しかし,原判決が説示すると
おり,利貸しは本来存在しない収益を計上することになって,もともと支払うべき
理由のない配当や税金の支払を免れないのであるから,それ自体金融機関本人に対
して直接的な加害性(損害を与えること。以下同じ。)を有することは明らかであ
る。さらに,利貸しは財務面の問題性だけでなく,債権管理を結果において失敗さ
せた運営面の問題性をも覆い隠し,内外の監督,批判を逃れ,適切な対応を実施す
る機会を失わしめるという意味で,金融機関に計り知れないマイナスを与えること
も看過することはできない。加えて,検査に対して利貸しを通常の貸付と偽らなけ
ればならないから,必然的に虚偽の書類作成が日常的になり,そのロスや業務運営
全般に欺瞞性をはびこらせる点も無視し得ない。大阪府が利貸しの是正を再三にわ
たって指導したのも,まさに利貸しのこのような実質的な加害性の大きさに鑑みた
ものと認められる。なお,被告人らは,大阪府はC1信組が大口融資先に利貸しを
行っていたことは知っていた旨述べる。しかし,そもそも大口融資先に対しては,
大口信用集中の規制を免れるために,C1信組側及び融資先それぞれの関連会社を
利用した迂回融資を実施していること,Fの供述(当審提出の陳述書)によって明
らかなように,利貸しであることが一見して分からないように融資金の流れを攪乱
する手法が用いられていたこと,平成5年度の検査までは関連会社の帳簿の開示に
消極的であったこと(なお,被告人A1は,開示に消極的であった理由は,大阪府
がそのデータを公表したことがあり,顧客のプライバシー保護のためであるなどと
述べるが,その理由いかんは大阪府が利貸しの事実をどの程度知ることができたか
という観点からは問題にならない。)などの事情があるから,人員や時間に限りの
ある検査によって,大阪府がその詳細を把握することができたとは解されず,具体
的な指摘を受けなかったことで,大阪府が利貸しを許容していたなどといえないこ
とは当然であるし,いわんや,さらなる利貸しを容認するとは考えられない。
もっとも,原判決も認めるとおり,利貸しは収益が悪化し利息が払えなくなった
企業に対して収益改善の機会を与えるというプラス面もあり,短期的な応急措置と
して合理性が存する場合もあることは否定できないが,上記の加害性にかんがみれ
ば,それはあくまでも収益改善の可能性が客観的に認められるような場合に例外的
に認められることであって,金融機関の営業として基本的には許されないものであ
り,このことは,被告人A1でさえ,利貸しは短期的には許される,長期とは1年
をいうと供述していること(当審第2回)によっても裏付けられる。
そこでC1信組が行っていた利貸しについて検討すると,少なくとも10社の大
口融資先に対して,平成3年末ころ以降既に2年以上も利貸しを継続しているので
あり,額や期間からみてその規模は巨額にのぼり,もはや緊急措置としての性格を
逸脱していることは明らかであり,C1信組の財務面に対する加害性には重大なも
のがあるといわざるを得ない。
Posted by ミカリン at 11:50│Comments(0)