2010年05月11日

不正競争 民事訴訟

借金を返済するには返済プランが重要


第一 請求の趣旨
一 被告は、芸名として「音羽」なる名称を称し、また、自らの主宰する舞踊会に
「音羽流」なる名称を冠し、右両名称を表札、看板、印刷物、書面に表示する等し
て使用してはならない。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 仮執行の宣言
第二 事案の概要
一 原告の活動
 Aは、昭和九年、六代目Bの命を受けて家元として日本舞踊音羽流を創設し、芸
名をCと称していた。同人が昭和四二年二月九日に死亡すると、その妻であるD
が、二代目Cを襲名して音羽流の二代目家元となった(争いがない。以下、Aを
「初代C」といい、Dを「二代目C」という。)。
 原告は、初代Cの甥であるが、昭和四八年、三代目Cを襲名して音羽流の三代目
家元となり、「音羽流」「音羽」の表示を使用して、日本古来の日本舞踊の研鑽と
振興のために舞踊会を催し、同流の門弟を指導し、教授者を養成し、もって音羽流
の日本舞踊を広める等の活動をしている(甲第六ないし第一〇号証、第二一、第二
二号証、原告本人)。
二 被告の行為
1 被告は、初代Cに師事し、名取として「E」と称していたが、昭和六一年五月
頃、原告を家元とする音羽流を退流した(争いがない。)。
2 被告は、右退流後も「E」と称し、昭和六二年頃から、「清派音羽流」の表示
を使用して、弟子を募集し、発表会を催すなどの舞踊活動をしている(争いがな
い。)。
3 被告は、平成五年一二月初め、歌舞伎の音羽屋一門の当主である七代目F(以
下「F」という。)から、「證 E 右の者に日本舞踊流派音羽流(清派)の創流
を音羽流宗家として許可します」との書付け(以下「本件書付け」という。)を授
与された(乙第一二号証、被告本人)。
三 原告の請求
 「音羽流」「音羽」の表示は原告の営業であることを示す表示として周知性を獲
得しているところ、
被告が使用している「清派音羽流」「音羽」の表示は「音羽流」「音羽」の表示と
同一又は類似するものであり、その使用により原告の営業との混同を生じ、原告の
営業上の利益を害されるおそれがあると主張して、不正競争防止法二条一項一号、
三条に基づき、被告が芸名として「音羽」なる名称を称し、また、自らの主宰する
舞踊会に「音羽流」なる名称を冠し、右両名称を表札、看板、印刷物、書面に表示
する等して使用することの停止を請求。
四 争点
1 「音羽流」「音羽」の表示は、原告の営業であることを示す表示として周知性
を獲得しているか。
2 被告の「清派音羽流」「音羽」の表示は、「音羽流」「音羽」の表示と類似
し、その使用により原告の営業との混同を生じ、原告の営業上の利益が害されるお
それがあるか。
3 被告の「清派音羽流」「音羽」の表示の使用について、不正競争防止法一一条
一項二号の自己氏名の善意使用に該当する等、違法性阻却事由があるか。
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(「音羽流」「音羽」の表示は、原告の営業であることを示す表示とし
て周知性を獲得しているか)
【原告の主張】
1 原告は、音羽流の三代目家元として、次のような日本舞踊の営業活動を行って
いる。
(一)自ら舞踊会、講習会に出演し、出演料等の対価を得る舞踊活動
(二)門弟を指導し、授業料等の対価を得る教育活動
(三)門弟に対し、一定水準以上の者について一定の試験を経て初段から五段まで
の段位を認め、より水準の高い者には名取として「音羽」の姓を冠した芸名を称す
ることを許し、更に水準の高い者には教授として自らの門弟に音羽流独自の舞踊を
「音羽流」の名称を使用して指導する権限を与え、受験料、昇段料、名取料等の対
価を得る活動。
 これらの活動について、原告は、各事業年度ごとに事業計画を立て、これを具体
的に実現するための予算を組み、当該年度の支出はこの予算に従って行い、支出の
結果については毎会計年度ごとに決算をし、支出の適否を検討している。
 したがって、原告が、家元として行っているこれらの活動は、文化・芸術活動と
いうべき側面はあるが、一面では、これらの活動を維持・継続するため、経済上の
収支計算の上に立って行われている事業活動でもあるから、不正競争防止法二条一
項一号所定の「営業」に該当する。
2(一)「音羽流」が原告の営業表示であることは、1記載の事実から明らかであ
る。
(二)また、各名取の称する「音羽」の姓を冠した名取名も、営業表示である。
(1)すなわち、わが国における家元制度においては、流派の名取は家元の統制権
によりすべて同一の姓を称しており、それを名乗るためには家元の許可が不可欠で
ある事実を前提にすれば、「音羽」の姓を必ず称していることによって原告の前記
営業を表示しているといえるのである。
(2)仮に、「音羽」の表示は営業表示それ自体ではないとしても、原告が事業活
動の実施・遂行のために他人にライセンスしてきた表示ないし名称とみるならば、
不正競争防止法二条一項一号にいう「他人の営業を表示するもの」はその趣旨から
してその「他人」の営業表示のみならずライセンスに供する表示をも含むものであ
ると解することにより、同じ結論となる。
(3)更に、この「他人」を、音羽流の主宰者である原告に限定することなく、例
えばフランチャイザーとフランチャイジーのように、冒用者以外のすべての正当な
表示の使用者ないし一群の使用者グループ(本件の場合は音羽流一門)と解釈する
ことも可能である。
3 「音羽流」「音羽」の表示が現在周知性を獲得していることは明らかである。
(一)「音羽流」「音羽」の表示は、以下のとおり初代Cの時代に周知性を獲得し
ており、これが二代目C、原告と承継されている。
(1)音羽流は、昭和九年に初代Cにより創流されたものであるが、初代Cが高名
な六代目Bの弟子であったため、創流当初から音羽流、Cの名前は日本舞踊界を中
心にして世間一般に広く知れ渡り、この時点で既に「音羽流」「音羽」の表示は関
西の日本舞踊界において周知性を獲得した。
(2)初代Cは、戦争中は目立った活動ができなかったが、昭和二〇年代後半、当
時関西唯一の日本舞踊の組織として関西邦舞協会が組織化され、その役員となっ
た。
この時点で、「音羽流」「音羽」の表示は、関西の日本舞踊家を中心として広く一
般の人に知れ渡るようになった。
(3)初代Cは、昭和三五年、音羽流家元として、伝統ある日本の著名な流派のほ
とんどがその構成員となっている全国規模の組織である社団法人日本舞踊協会(関
西邦舞協会もこれに発展的に吸収された。)に加盟し、この時点で、「音羽流」
「音羽」の表示は、広く一般の人に知れ渡るようになった。
(二)仮に右(一)の事実が認められないとしても、「音羽流」「音羽」の表示
は、原告が三代目Cの襲名披露をした昭和四八年一〇月二八日には、日本舞踊界に
おいて周知性を獲得したことは疑いがない。
 すなわち、原告が昭和四八年音羽流家元三代目Cを襲名した際、その有名な音羽
流の三代目家元が決定したということで日本舞踊界の注目を集め、原告側でも案内
状を各方面に出して三代目襲名を通知した。また、各芸能新聞も原告の三代目襲名
の事実を大きく取り上げて報道した。更に、襲名披露は大阪の新歌舞伎座で行わ
れ、F以下著名人が多数出演する盛大なものであった(甲第八ないし第一四号
証)。
 以後原告は、日本はもとより、海外においても幅広く日本舞踊活動を行ってい
る。現在、原告を家元とする音羽流は、全国各地に約二五〇〇名の門弟を擁してお
り、そのうち自らの門弟に指導する資格を有する名取教授は約五〇〇名、一定の技
能は習得しているが指導はできない単なる名取は約二五〇名である。
4(被告の主張について)
(一)被告は、原告が二代目Cが健在であるのに無断で三代目Cを名乗った旨、あ
るいは二代目Cと原告との間には断絶がある旨主張するが、二代目Cと原告との間
で、音羽流を主宰する家元の地位を譲渡する旨の合意がなされており、音羽流の構
成員もこれに賛同したため、断絶は存在しない。
 原告は幼少の頃から初代C、二代目C夫婦に引き取られて実の子供同然にして育
てられたものである。このような環境にあった原告が三代目Cを承継したことは、
いわば当然の成り行きであり、二代目CことDも、喜んで音羽流家元の地位を原告
に承継させたのである(甲第七号証)。
(二)被告はまた、原告は初代Cの独特の舞踊である「振り」と「手」を承継して
いない旨主張するが、原告は、初代C死亡後、同人の同じ六代目B門下の兄弟弟子
であったGに約四年間指導を受け、さらに、ある踊りについては二代目Cからも指
導を受けているし、古参の者たちと一緒に踊りの会を催す等して勉強を続けている
のであり、当然に、初代Cの音羽流の踊りを承継し、高度の舞踊技術を修得してい
る。しかし、そもそも、司法権には日本舞踊団体における踊りの技術の判断権限は
ないのであるから、本件訴訟では、原告の踊りがどのようなものであるかは全く問
題とならない。
【被告の主張】
1 原告は、後には体裁を整えたが、当初は二代目Cが健在であるのに無断で三代
目Cを名乗ったものである。
 したがって、二代目Cと原告との間には断絶があり、舞踊そのものも、初代Cの
独特の舞踊である「振り」と「手」を継承しているのは二代目Cまでであり、原告
は、音羽流を名乗っているとはいえ、その間には法的同一性はなく、新たな流派を
創流したものとみるのが相当である。
2 「音羽」流の名跡は、原告に固有のものではなく、「音羽」を屋号とする尾上
家にその淵源を有しており、「音羽」の名跡は「宗家」を筆頭に形成されているヒ
エラルキーにおける一門全体の呼称である。
(一)原告は、歌舞伎の音羽屋を宗家としている。
 「音羽屋」の名称は、広辞苑第四版三七一頁にも「歌舞伎俳優Bとその一門の屋
号」と解説されているとおり、周知のものである。
 「宗家」とは、「伝統的芸能の世界で、流派の開祖、最高責任者である家元の別
称。または家元を統括する家」(講談社「日本語大辞典」)という意味を有する。
(二)歌舞伎は、「近世の初めに流行した踊りに始まる、日本の代表的演劇」(前
同書)であり、踊りとは切り離せない関係にある。このように歌舞伎の中で演じら
れた舞踊や歌舞伎から発した「歌舞伎舞踊」は、日本舞踊の主流をなす一形態であ
るといわれる(前同書)。現在でも、歌舞伎の公演では、芝居だけでなく、日本舞
踊もその演物として必ず取り上げられている。
 六代目Bは近代歌舞伎を代表する名優であり、舞踊にもすぐれており、日本俳優
学校も創立している(前同書)。このように芸の発展に意欲的であった六代目Bが
「音羽屋」の踊りを発展継承させるために、弟子のうちからHを選び、流派名を
「音羽流」と名付けて舞踊に専念させたのが、初代Cなのである。
 したがって、初代Cの「音羽流」舞踊は、まさしく音羽屋を宗家として成り立っ
ているのである。
 現に、原告の三代目C襲名披露の際などには、原告自身、六代目Bの没後に尾上
家を継いだF(やはり舞踊にすぐれていることが前同書に記載されている。)を特
に招いて出演してもらっているのである。
二 争点2(被告の「清派音羽流」「音羽」の表示は「音羽流」「音羽」の表示と
類似し、その使用により原告の営業との混同を生じ、原告の営業上の利益が害され
るおそれがあるか)



Posted by ミカリン at 11:55│Comments(0)
 
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