2010年04月23日

意匠権 民事仮処分

借金返済を考えるなら


第一 申請の趣旨
一 債務者は、別紙目録一及び二記載の各自動車用ホイールを、製造し、販売して
はならない。
二 債務者の占有する前項の各物品及び同各物品の製造に用いる金型の占有を解い
て、大阪地方裁判所執行官にその保管を命ずる。
第二 事案の概要
一 本件は、債務者の製造販売する自動車用ホイールの意匠が、債権者らの有する
意匠権の範囲に属し、その意匠権を侵害しているとして、債権者らが債務者に対
し、右製造販売の差止めを求めた事案である。
二 争いのない事実
1 債権者らは、別添一の意匠公報記載の登録意匠権(以下「本件意匠権」とい
い、本件意匠権に係る意匠を「本件意匠」という。)を有する。
2 債務者は、別紙目録一記載の自動車用ホイール(以下「債務者製品第一」とい
い、債務者製品第一に係る意匠を「イ号意匠」という。)を昭和六三年八月ころか
ら、別紙目録二記載の自動車用ホイール(以下「債務者製品第二といい、債務者製
品第二に係る意匠を「ロ号意匠」という。)を平成元年三月ころから、それぞれ製
造し販売している。
3 債権者らは、「無限MR-5」という商品名の自動車用ホイール(別添二の写
真のホイールである。以下「債権者製品」という。)を昭和六三年二月ころから販
売している。債権者製品の意匠は、平成二年一〇月四日、本件意匠を本意匠とする
類似意匠(意匠法一〇条)として登録された(以下、この意匠を「本件類似意匠」
という。)。
4 債権者らは、債務者に対し、平成元年四月二八日付内容証明郵便(同年五月一
日到達)をもって、債務者製品第一、第二の製造販売が本件意匠権を侵害している
として、その中止を求めたが、債務者はこの求めに応じない。
三 争点
1 (被保全権利について)
(一) 債権者らは、イ号、ロ号意匠は本件意匠に類似し、本件意匠権を侵害して
いるので、債務者に対し債務者製品第一、第二の製造販売の差止めを求める権利を
有すると主張する。
(二) これに対し債務者は、
おおむね次のとおり反論する。
(1) 本件意匠は、センターロックナットを装着しない状態で意匠登録されてい
るのだから、イ号、ロ号意匠との類否を検討するためには、イ号、ロ号意匠もこれ
と同一条件で対比することを要するところ、同一条件にするためには、イ号、ロ号
意匠を、センターキャップ(ディスク表側の中心に位置する六角ナット状のもの)
及びセンターカバー(ハブボルト隠し蓋)を除去した状態のものとして把握すべき
であるが、そうだとすると、イ号、ロ号意匠はいずれも本件意匠にまったく類似し
ていない(争点1)。
(2) 仮に、イ号、ロ号意匠についてセンターキャップとセンターカバーを装着
した状態の意匠をもって本件意匠との類否判断を行うべきであるとしても、イ号、
ロ号意匠のセンターキャップに表示されたブランド名は需要者の注意を惹くもので
あること、その他いくつかの意匠構成上の相違点があることから、イ号、ロ号意匠
はいずれも本件意匠に類似していない(争点2)。
2 (保全の必要性について)
(一) 債権者らは、債務者製品第一、第二が販売されることにより、本件意匠権
の実施品である債権者製品の需要が直接奪われるばかりでなく、本件意匠が陳腐化
して債権者製品の商品価値が下落することとなるので、債権者は本案判決の確定を
待っていては回復し難い損害を被るおそれがあると主張する。
(二) これに対し債務者は、おおむね次のとおり反論する。
 本件意匠登録には、次のような無効事由が存するため、現時点において仮処分に
より債務者製品第一、第二の製造販売を差し止めることは相当でない(争点3)。
(1) (公知意匠との類似)
 本件意匠は、本件意匠登録出願前に存した公知意匠に類似している。
(2) (新規性喪失例外規定の適用要件の欠缺)
 本件意匠登録出願に際し特許庁に提出された新規性喪失例外規定(意匠法四条二
項)適用のための資料によれば、出願前の昭和六二年三月二二日にレース出走車両
に装着されたことにより公表されたホイールと本件意匠に係るホイールとの同一性
について証明がなく、本件意匠権は右規定の適用を受けるための要件を欠いてい
る。
(3) (他の公知意匠の存在)
 仮に本件意匠のホイールが右レース出走車両の前輪に装着されて公表されたホイ
ールと同一であるとしても、その際、これと類似する別の意匠のホイールが右車両
の後輪等に装着されて公表され、その後、この別の意匠のホイールは、本件意匠登
録出願前にも雑誌に掲載されて公表されたのであるから、この別の意匠のホイール
については、新規性喪失例外規定は適用されず、公知意匠となり、その結果、これ
と類似する本件意匠は、その登録出願時には新規性を有しない意匠となっていたも
のである。
第三 争点に対する判断
一 争点1(イ号、ロ号意匠の特定)について
 後述二1(一)のとおり、自動車用ホイールの需要者は、それが自動車に装着さ
れた時の状態の意匠に特に注意を惹かれるものであるところ、債務者製品第一、第
二は、いずれもセンターキャップ及びセンターカバーを付けた状態で自動車に装着
され使用されるものであること、債務者製品のセンターキャップ及びセンターカバ
ーは、債務者製品の一部としての機能、性質のみを有し、逆に債務者製品の本体に
他の意匠のセンターキャップ及びセンターカバーが付けられることは予定されてい
ないことから、イ号、ロ号意匠は、センターキャップ及びセンターカバーを付けた
状態のものとして把握すべきであり、これに反する債務者の主張は採用できない。
(この項の認定・判断に供した資料は審尋の全趣旨)
二 争点2(本件意匠とイ号、ロ号意匠との類否)について
1 (自動車用ホイールの意匠について)
(一) 自動車用ホイールの意匠のうち、需要者の注意を強く惹く部分は、これを
タイヤに嵌め込み、自動車本体に装着した際に外側から見えるディスク及びリムの
表側の部分である。ホイールの需要者は、主として自己の所有する自動車の見映え
を良くするためにこれを購入するのが通常だからである。
(二) 自動車用ホイールには、リム部分とディスク部分とを別に成型し、後にこ
れらを接合して完成するツーピースタイプ及びスリーピースタイプと、リム部分と
ディスク部分とを最初から一体で成型するワンピースタイプとがあり、ツーピース
タイプ及びスリーピースタイプの場合には、リム部分とディスク部分とを接合する
ための多数のボルトの頭部がディスク外周部又はリム枠部の表側に表われているも
のがあるが、その点を除けば、リム部分は構造上の制約などから新規な意匠を考案
しにくい部分である。したがって、一般に自動車用ホイールは、主としてディスク
部分の表側の意匠において他との差異を見出しうるものである。
(三) また、自動車用ホイールは、自動車の重量を支え、駆動力ないし制動力を
伝達するという機能からして、一定以上の強度を要求され、かつなるべく軽量であ
ることが望ましいことから、ディスク部分の意匠も、おおむねディッシュタイプ、
メッシュタイプ及びスポークタイプに分類できるものとなっており、軽合金ホイー
ルの実用化された後は意匠の自由度が高まったとはいえ、全く新規な意匠の考案は
行いにくい物品であるということができる。
(四) 以上(一)ないし(三)の事情に加えて、自動車用ホイールの需要者は、
自己の所有する自動車の意匠と調和する意匠であるかどうかなど、主としてその意
匠に着目してそれを購入する関係上、自動車用ホイールは、比較的小さい構成の差
異であっても類似性判断に否定的影響を及ぼしやすい物品であるということができ
る。



Posted by ミカリン at 13:18│Comments(0)
 
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